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こどもの痛みの緩和
チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)としての関わり

こどもが主体性を持って医療に参加できるように支援するチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)として、医師や看護師らとともに、「こども・家族中心の医療」を目指し仕事をしています。

CLSの仕事の中でも、こどもの医療処置にともなう痛みや苦痛の緩和は大きな位置を占めます。こどもは検査や処置で痛みを経験し、医療と痛みが結びついてしまうと、病院は怖いところ、痛いことをされるところと認識し、医療処置に対して不安や恐怖を感じるようになります。

採血や注射、点滴などの「針穿刺」は、痛みをともなう医療処置の代表的なものですが、とくに初回の処置で強い痛みを経験すると、痛みの閾値いきち(痛みを感じる最小の刺激レベル)が低下し、同じ程度の刺激であってもより痛みを感じやすい心と体になってしまうことが分かっています。 そのため、痛みの緩和が重要視されるようになり、針穿刺を行う1時間ほど前から、皮膚に貼ったり、塗ったりして痛みをやわらげる「外用局所麻酔薬」を用いる方法が、少しずつ広がっています。

外用局所麻酔薬を皮膚に貼っておく(または塗っておく)と、麻酔薬が真皮まで浸透し、針を刺したときの痛みをほとんど感じません。筋肉注射や皮下注射の場合は、薬液の刺激で痛みを感じることはあるものの、針を刺すときの痛みは少なくできるため、全体的な注射に対する苦痛は軽減されているように感じます。

こどもに採血や点滴挿入の必要性やその流れを説明せず、こどもの注意を反らしたり、呼吸法などを用いたりせずに針を刺すと、こどもは痛みのためにビクンとして手を引くことがあります。外用局所麻酔薬を使用することによって、針を刺すときの痛みがやわらぐことが分かったり、検査や治療の意味を事前に理解していたりすると、その処置を受ける最初から最後まで、こどもなりに頑張って、動かないように協力していることが多く、より安全で短時間な処置につながっている印象です。そして、「がんばれた!」「できた!」という体験を通してこどもは自信を持つようになります。針や注射を嫌がるこどもの説得から始めるのではなく、この外用局所麻酔薬で針の痛みを緩和するからやってみよう、という働きかけもできます。

痛くないという体験記憶があるとこどもは安心し、必要な医療処置を受けることや、処置のあいだに気を紛らわせる方法として、絵本を見るのか、ギュッとボールや人形を握っているのかなどを自己決定して、その処置に臨むことができます。処置を受ける場での役割も、医師は針を刺すこと、看護師は自分を見守ってくれる存在であること、そして自分はじっとしていることであると理解し、主体性を持って医療に参加できるようになります。

こどもには、こどもなりに理解して自己決定し、それを実行する力があります。痛みに対する恐怖や不安などを取り除くことによって、その力を十分に発揮できるようになります。理想は、最初の針穿刺で痛くない体験ができることだと考えます。多くのこどもにとって初めての針穿刺の機会になると思われる予防接種を行う地域のクリニックや、初めて採血を受けることになるかかりつけ医などでも、外用局所麻酔薬を含めた痛みの緩和が普及することが望まれます。

※ CJ Woolf .Evidence for a central component of post-injury pain hypersensitivity. Nature. 1983 ;306(5944):686-8.

原田 香奈 さん

チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会 副会長
チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)
原田 香奈さん

チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)は、こどもの発達や心理、ストレスコーピングに関する専門知識を持ち、医療を受けるこどもとその家族が、困難に直面したときに乗り越えるための支援をする専門職です。その子の発達段階に応じて、なぜその医療行為が必要なのか説明したり、検査や処置に同伴するほか、がんの告知前後の精神的サポートやグリーフケアなども行い、こどもが主体性を持って医療に参加できるように支援します。きょうだい支援を含めた心理的・社会的支援を幅広く提供し、医師や看護師ら多職種とともに、「こども・家族中心医療」を目指しています。全国のこども病院や大学病院、公立病院などを中心とした国内33施設に47名(2020年9月現在)のCLSが勤務しています。
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